この記事は、私が祖父(2018年7月に永眠)の介護にかかわった約8か月の体験を元にしています。私は介護にかかわること自体初めてで、何の知識もありませんでした。
そんな私が最後まで祖父の介護にかかわることができたのは、ケアマネージャーさんやヘルパーさん、訪問看護師さん、主治医の先生など多くの人達の助けがあったからです。
今になって当時を振り返ると、「あの時ああすればよかった」など反省することも多いです。その体験が少しでも誰かの役に立てば嬉しいと思い、記事にすることにしました。
この祖父の介護の記事は私の実体験を語りながら、感じたことや反省したこと、そして介護や医療関係者から受けたアドバイスなどもご紹介します。
今回は祖父の介護④でご紹介した、認知症の祖父に怒ってしまった失敗談の続きです。あの失敗から私は祖父の言動には理由があると考え、怒りを抑えて問題を解決するように努力してきました。もちろん全てうまくいった訳ではないのですが……。
今回は実際に祖父に言われて怒りそうになったこと、それに対して理由を考え対処した体験談を4つご紹介します。
- 1.「誰や!何しに来たんや!」と怒鳴られた
- 2.「またよーさん買ってきて」と迷惑そうに言われる
- 3.「ヘルパーが時間通りに来ない!」と怒る
- 4.「買い物から帰ってくるのが遅い!」と文句を言われる
- まとめ
1.「誰や!何しに来たんや!」と怒鳴られた
認知症の祖父の食事は、介護にかかわり始めてしばらくは私が届けていました。主食は祖父の好物のレトルトパックのおかゆで、それを1回に30パック近く抱え、自宅から1時間強かかる祖父の家まで電車で通っていました。
ちなみに祖父の自宅の近くにもスーパーがありましたが、置いているおかゆの数が少なかったのでそこでは買えなかったんです。
電車から降りると10分ほどは歩きます。おかゆだけでなく、2リットルのペットボトルを数本抱えていくこともありました。
その日も私はいつも通り重たい荷物を抱えて、祖父の自宅に入りました。すると入ってすぐ「誰や!何しに来たんや!」という祖父の怒鳴り声が聞こえました。
私は意味がわからず、怒鳴り声が聞こえたダイニングに向かいました。祖父は定位置の椅子に座っており、私はその目の前に立ちました。
祖父は私の顔をしっかりと見たまま「誰や!何しに来たんや!」と、また怒鳴りました。祖父の自宅を訪れたのはほんの2日ぶりくらいで、顔を忘れたとは考えにくく私は混乱しました。
ただ重たい思いをしてここまで祖父の食事を運んできたのに、なぜいきなり怒鳴られなければならないのかと怒りを覚えました。
でもここで「誰やとはなんや!おまえの飯を持って来たったんじゃ!」などと怒鳴る訳にはいきません。喧嘩になってしまうだけです。
ヘルパーにお金をとられたと思い込んでいた
ちなみにこの日は私が介護にかかわってから初めての認定調査の日でした。自宅を出てすぐにケアマネージャーさんから電話があり、前日祖父がヘルパーさんに「お金をとった!」と暴言を吐いたことを聞かされました。
どうもヘルパーさんが100万とったとか、200万とったとか言ったらしいです。そもそもそんな大金自宅に置いていないのですが。
更に祖父が買い物代行を拒否した、ということも聞きました。私がずっと食事を買って届けるというのが難しいと思い、知ったばかりの買い物代行というサービスを試してみようと思ったのですが……。
買い物代行はヘルパーさんにお金を渡して、必要なものを買ってきてもらうシステムになっているので、ヘルパーさんがお金をとったと思い込んだ祖父は、買い物のためにお金を渡すことを拒否したようです。
そういう話を聞いていたので、私は「もしかして祖父は私をヘルパーさんと勘違いしているのでは?」と思いました。
そこで私は「おじいちゃん、こんにちは。孫の○○です」と、ゆっくり大きく口を動かしながら言いました。すると祖父は「あぁ、○○か」と言ってコロッと態度を変えたのです。
祖父が怒鳴ったのは怖かったから?
その後祖父に話を聞いたのですが、やはり祖父は前日ヘルパーさんにお金をとられたと思い込んでおり、今日もまた盗みにきたと思ったようです。更に私が目の前に立ってもわからなかったのは、目がよく見えないからとのことでした。
つまり祖父が怒鳴ったのは、祖父にとっては正当な理由があった訳です。
もちろんヘルパーさんがお金をとったなんて事実はないですし、親身になってお世話をして下さっているヘルパーさんに対してとても失礼な話なんですが、祖父がそう思い込んでいる以上、私がそれを否定しても事態が好転することはないでしょう。
また祖父はそのときはまだ自分の足で歩けていたものの、自宅でも壁に手をついて歩く有様で、もし仮に誰かが盗みに入ったとしても、まともな抵抗ができるような状態ではありませんでした。
そのことが余計に祖父の恐怖を増大させ、でも強気な性格だったので、虚勢を張って怒鳴ったのかなと思いました。
そこまで考えると、もう怒りはなくなっていました。この件以来、私は祖父の自宅に入るときや祖父の目の前に立つとき、必ず「孫の○○です」と言うようにしました。
それがよかったのか、同じようなシチュエーションで祖父が怒鳴ることは2度とありませんでした。
2.「またよーさん買ってきて」と迷惑そうに言われる
上で私が祖父の食事にレトルトパックのおかゆを届けていた、という話をしましたが、それを持っていくたび祖父は「またよーさん買ってきて」と言って迷惑そうな顔をしていました。
27パック届けたときには「こんだけあったら正月過ぎてもあるわ」と言われたのですが、その日からお正月までは1か月近くありました。つまりそこまでもつ訳がないのですが、祖父はまるで私が無駄遣いしているかのように文句を言ってきたのです。
祖父は基本的に3食おかゆを食べていたので、単純計算で1か月90パックは必要です。さすがに私が1度に90パックは抱えていけないので、1週間分以上を目安に1回につき30パック近く届けていたのです。
ちなみにしばらくしてから通販で祖父の自宅に送るようになりましたが、このときはまた入院するのか、いつまで食事がとれるのかなどがわからなかったので、少しずつ買っていました。
更におかゆは主食なので、それを届けたあとに近くのスーパーでおかずや飲み物、好物のアイスなども買って届けていました。それを見たときも、祖父は同じように文句を言いました。
孫が自分の世話を焼くのは当然のこと?
ある日それを見ていたケアマネージャーさんが、祖父に「○○さん(祖父のこと)のためにわざわざ買ってきてくれてるのに」と言ってくれましたが、祖父は知らん顔でした。
祖父は血のつながった息子や娘、孫が自分の世話を焼くのは当然のこと、という考えだったんです。
正直腹が立ちました。ケアマネージャーさんの言う通り、私は祖父のために数はもちろん、栄養や金額も考えて食品類を購入していました。それに加えてオムツや洗剤などを買うときは、お店と祖父の自宅を何度往復したことか……。
荷物が重くて息をきらしながら自宅に戻っても感謝されることはなく、毎回迷惑そうな態度をとられる、これでは腹が立っても仕方ないでしょう。
もちろんそこで祖父に怒っても意味がないことはわかっていますが、それでも何の反論もせずにニコニコ笑っていられるほど私は人間ができていません。
なので祖父には、「おかゆは1日3パック食べるんだから、1か月に約90パックは必要なんですよ」と説明しました。祖父は昔から計算が得意な方だったので、そう言えばわかるだろうと思ったのです。
けれどその予想は外れ、祖父はきょとんとしていました。まるで私が外国語でも喋ったかのように、意味がわからないという顔でした。
その様子を見て、私は「あぁ、もう計算もできなくなったんだな」と思いました。祖父は認知症だとわかっているつもりでも、専門家ではないので何ができなくなっているのかまでは、実際に目にするまでわからなかったのです。
それからは祖父が同じように文句を言うと、「今日持ってきたのは21パックなので、1週間分ですよ」とか、「おかゆが残り9パックで、3日分しかないので追加を買ってきますね」とかも言ってみたのですが、よくわからないという顔をしていました。
計算も食べたら無くなるということもわからなくなっていた
食べたら無くなるということも理解できなくなっていたようで、アイスを買うのを忘れていたとき「今はないんです」と言うと「なんでや。冷蔵庫によーさん入っとるやろ」と言われたこともあります。
結局「またよーさん買ってきて」という祖父の文句は、私が何か言うことで止めることはできませんでした。
でもしばらくして祖父は寝たきりになり、ダイニングのおかゆの在庫を見ることができなくなったので、そういった文句を言うことはなくなりました。
3.「ヘルパーが時間通りに来ない!」と怒る
祖父は寝たきりになってから受けた認定調査で、要介護5になりました。それからヘルパーさんは最大で1日3回、お昼に訪問看護師さんに1回入ってもらっていました。
訪問看護師さんが自宅に来る時間は多少前後するようでしたが、ヘルパーさんは基本的に毎日同じ時間に来て下さいます。祖父にはケアマネージャーさんがそのことをきちんと説明し、更に何時に自宅を訪問するのかを紙に書いて、ベッドのすぐ横の壁に貼っていました。
それなのに祖父は「ヘルパーが時間通りに来ない!」としょっちゅう怒っていました。祖父は私だけでなくヘルパーさんにも直接文句を言っており、それどころか「ヘルパーが来ていない!」と文句を言うこともありました。
ヘルパーが来てないから朝から何も食べてない!と怒る
私が祖父の自宅を訪れるとすごい剣幕で「ヘルパーが来てないから、朝から何にも食べてない!」と言われたこともあります。
驚いてヘルパーさんや訪問看護師さんが毎回記入する「介護ノート」を確認しましたが、時間通りに訪問があり、食事も何をどれだけ食べたかきちんと書いてありました。
つまり祖父は数時間前にヘルパーさんが来たことや食事をとったことを、全て忘れてしまっていた訳です。こういったことは認知症のよくある症状と聞いたことがありますが、実際に自分の身内に起こると衝撃を受けるものです。
正直対応にも困りました。祖父はカンカンに怒っているのですが、実際はヘルパーさんは時間通りに訪問して食事もきちんと出して下さっているのです。
何度か祖父にそのことを言ってみましたが、「来てない!食べてない!」と怒るので、それ以上否定する訳にもいかず、仕方なく「私がきちんと話をしておきますね」などと言ってなだめるしかありませんでした。
窓に映る影をヘルパーだと決めつけて怒鳴る
そういったことが何度かあってから、祖父は「ヘルパーが家に入って来ないで、外でサボッとる。窓に影が映っとるからわかるんや!」と言うようになりました。
確かに祖父の部屋の窓には、外の共用廊下を歩いている人の影が映ることがありました。でもそこでヘルパーさんがサボッているなんてことは、絶対にありえません。
返答に困ったものの、とりあえず「この階に住んでいる人が歩いている影が映ったんじゃないですか?」と言ってみたものの、「あれはヘルパーの影や!」と譲りません。
更に間の悪いことに部屋の窓に人影が映り、祖父はその影に向かって「見えとるぞ!入ってこんかい!」と怒鳴ったのです。ちなみにそれは隣に住んでいる人の影で、後で私が謝罪に行きました。
祖父は窓に実際に影が映ったときだけでなく、なにも映っていないときも同じように怒鳴ることがありました。私が来ていないときや、ヘルパーさんや訪問看護師さんが来ていない時間は、自宅にいるのは祖父1人です。
そのときにも同じように怒鳴っているのかと思うと、胃が痛くなりました。一応そのことはヘルパーさんにも報告しておきましたが、祖父が1人で自宅にいるときのことはどうしようもありません。
この件はカッとなるような怒りを感じた訳ではありませんが、正直疲れてしまい「もういい加減にしてくれよ」と思っていました。
14時が午後2時、19時が午後7時と理解できなかった?
ちなみにこの件は、しばらくすると解決しました。そのために私がしたことは、時計の位置をベッドに寝ている祖父の顔の横辺りに下げたことと、ヘルパーさんが訪問する時間が書かれた紙を書き直したことです。
ヘルパーさんの訪問時間は14時、19時などと書かれていたのですが、祖父はそれが午後2時、午後7時だということが理解できなかったようです。さらに時計も寝たきりの祖父が見るには位置が高すぎたので、見えやすい位置に変えました。
それがよかったのかはわかりませんが、祖父が「ヘルパーが来ない!」と怒ったり、人影に怒鳴ったりすることはなくなりました。
4.「買い物から帰ってくるのが遅い!」と文句を言われる
何度かご紹介していますが、祖父の食事や洗剤などの日用品、床ずれの処置に必要なガーゼ類などは私が購入し祖父の自宅に届けていました。
そういった買い物は祖父の自宅を訪れてから近所で済ませることもあり、そのときはたとえば往診に来て頂いている先生のところへ支払いに行ったりなど、別の用事も一緒に済ませることが多かったです。
病院は午前と午後のように診療時間が決まっていますし、私は祖父の自宅から1時間強かかるところに住んでいたので、祖父の用事はできるだけ同じ日に済ませたかったのです。
祖父には出かける前に「買い物とかちょっと用事を済ませてきますね」と声をかけるようにしていたのですが、私が帰ってくると「遅い!どんだけかかっとるんや!」と言われることがよくありました。
用事によっては1時間近くかかることもありましたが、15分ほどしかかかっていないのに「遅い!」と文句を言われることも。
ヘルパーに私の愚痴を言う
しかも祖父はそれを私に言うだけでなく、ヘルパーさんに「買い物に行くだけであんなに時間がかかるはずないやろ!」などと愚痴を言っていました。
そういった愚痴は私が祖父の部屋にいないときに言うのですが、祖父は声が大きく家の中もそう広くないので私には丸聞こえでした。
正直腹が立ちました。買い物も他の用事も、全て祖父に関することなのです。それをまるで私がどこかで遊んできて無駄に時間を使った、みたいな言い方をするなんて理不尽じゃないですか。
私の場合は仕事でやっていた訳じゃないので、もし仮に私が祖父とは関係のない用事を済ませていたとしても、文句を言われる筋合いはありません。
とはいえそれをそのまま祖父に言っても、理解できないことはわかっていました。ヘルパーさんも祖父がそんな愚痴を言うと、「他にも用事を済ませて来てくれている」とか「今日は特売日でレジがすごい混んでる」とかフォローを入れて下さったので、なんとか我慢していました。
食べたいという豚まんを並んでまで買って戻ったのに
ところがある日祖父が有名店の豚まんが食べたいと言うので、私は電車に乗って中華街まで買いに行きました。観光客でごった返す中を、かき分けるように歩きお店に着くと、長蛇の列。
私はその列に並び豚まんを購入し、せっかくだからと同じ駅にある大型の100円ショップで祖父の食器類なども購入してから戻りました。
なぜ私がそんなことをしたのかというと、その頃祖父は食欲が落ちており、「好きなものなら食べてくれるかもしれない」、「食器を変えるだけで食欲が増すこともある」とヘルパーさんにアドバイスを受けていたからです。
恐らく往復で2時間はかかったと思います。最初から時間がかかることはわかっていたので、祖父には家を出る前に「遠いのですぐには帰って来れません。時間がかかります」と告げていました。
それなのに帰ってきた私に祖父は「遅い!どんだけかかっとるんや!」と怒鳴りました。「ありがとう」と一言のお礼も言わずに。
別に足元にひれ伏して「ありがとうございます」とお礼を言えだなんて思っていません。でもさすがに祖父の態度はひどすぎるでしょう。
更に祖父は「時間かかったから豚まんが冷めとうやろ!」と言い、私が電子レンジで温めて持っていくと「しょうゆがない!」と言い、しょうゆと小皿を持っていくと「お茶!」と言いました。私は帰ってきてから上着を脱ぐ暇もありませんでした。
そしてやっと祖父が豚まんを口にするのを見たとき、ちょうどヘルパーさんがやってきました。私はホッとして後はヘルパーさんに任せて、購入してきた食器類を片付けようとダイニングに戻ると、祖父が早速ヘルパーさんに「買い物に2時間もかかった!豚まんが冷めとった!」と愚痴を言っているのが聞こえました。
あのときはさすがにキレそうになりました。「誰のためにわざわざ遠いところまで買いに行ったと思っとんのじゃ!」と怒鳴りそうになったくらいです。
でもヘルパーさんが「お孫さんがわざわざ買ってきてくれたんですよ」など、フォローを入れて下さっているのが聞こえてぐっと我慢しました。
身体が弱っていくにつれ文句を言わなくなった
その後も祖父は何度か同じ文句を言うことがありましたが、身体が弱っていくにつれて私が買い物にかかる時間を気にする余裕がなくなったらしく、やがて言わなくなりました。
結局この件は解決策を見つけられず、祖父が文句を言わなくなるまで、ひたすら我慢するしかありませんでした。
ただ後から考えると、私が何時に帰ってくるのかがわからないので、その状態で待っている祖父にとっては不安だし、時間が長く感じられたのかなと思いました。
まぁ「テレビでも観て待っていてください」と言っても「いらん」と言われるだけで、正直どうしようもなかったのですが。
まとめ
今回は祖父の介護④の続きで、私が実際に祖父に言われて怒りそうになったこと、それに対して理由を考え対処した体験談を4つご紹介しました。
この記事でご紹介した体験談は、人によっては「そんなことくらいで怒らなくても」と思われてしまうかもしれません。私ももっとうまくやる方法があったのかもしれない、と思うこともあります。
ちなみに私は調剤薬局で事務として働いていたことがあるのですが、そのとき認知症の患者さんと接することはよくあり、対応に困ることはあったものの腹が立って仕方ない、というようなことはありませんでした。
それが祖父の介護にかかわると、腹が立たない日がないというくらいで……。これが赤の他人と身内の違いかな、と思いました。
ただ腹は立ったものの最初の失敗のように怒鳴ることは2度となかったので、それだけは自分なりに頑張ったと思っています。
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